ここ数年、年末になると雪が降る。大晦日、元旦は一日中ひとりハウスの雪降ろしの羽目となる。現在きらく庵のハウスは殆どが間口6M,奥行き40〜50Mのパイプハウス。積雪が30㎝を超えると不安になる。今まで数回小さなパイプハウスを除雪が間に合わず潰している。
天気予報を聞き、天気図を確認し、思案の末覚悟を決め、除雪のための身支度を整える。慌てず騒がず、雪溜まりの場所、ハウスの中の作物の種類、万が一潰れたときのダメージの軽重などを判断し、除雪ハウスの順番を決める。
ハウス屋根の除雪用に作った柄の長い鋤簾(じょれん)に、3Mばかりのロープを括りつけ、一方の端を左手首に縛り固定する。ハウス側面から屋根上に向かって鋤簾を投げ上げる為に。刃先に木の板を括りつけられた鋤簾は吹雪の中を舞いあがり、ハウス屋根の新雪にその重みで突き刺さる。後は両手でロープを力一杯手繰り寄せると、頭の上から大量の雪が雪崩のように落ちてくる。このたった一回の除雪で全身雪まみれとなる。
これから後は体力と気力と根気、それに理由のない使命感だけ。一つのハウスの両側が終わると後9棟。身体は熱く手足は冷たく痛い。手の温もりで溶けた雪が、ロープと鋤簾の柄に凍り付き次第に丸く太くなってゆく。こうなると思うように力が除雪に結び付かない。この苛立ち、歯がゆさはいつまでもつつ”かない。思考も体力も身体の感覚もなくなり、やがて恍惚となる。
寒くもなく苦痛もなく、雪に埋もれる恐怖も無くなる。そして夜、ヘッドライトに浮かぶ吹き付ける雪を美しく感じたら止めたほうがいい。気持ち良い眠りに入れそうだから。自然との一体感、自然に溶け込むとは、自身が自然の風景となるとは、こうした状態のことかもしれない。